【商業BLレビュー】オールドファッションカップケーキ

「オールドファッションカップケーキ」は2020年に発売された漫画家・佐岸 左岸(さがんさがん)によるBLコミックです。

私はてっきりBL小説だと思って購入。

ページをめくったらマンガで「あれっ」と驚いたものの、そのまま読み進めました。

「オールドファッションカップケーキ」は「このBLがやばい!2021年度版」BLコミック ザ ベスト20部門で2位にランクインした名作で、2020年には、興津和幸&阿座上洋平のキャスティングでドラマCDにもなっています。

タイトルは聞いたことがあったし、Amazonのレビューがやたら良かったので、暇な休日の読書用にと買った1冊でしたが、これ、ほんとうにヤバくて、もう全ページ溜息しか出ませんでした……

10歳差・年下部下攻め・美人上司受け

主人公はもうじき40歳になる会社員の野末。

(おそらく)課長ポジションだけれど、出世欲ゼロで出世の話は断り続けていますが、部下からは慕われていて「野末さんのためなら小一時間残業してもいい」と言われるくらいには人気者。

人当たりのいいキレイ系オジサンで、最近あらゆることが面倒になっている自分を自覚しています。

外川は29歳の「優秀な部下」。仕事ができてイケメン。そして野末さんのことをとても良く見ています。

ある日、駅のホームでキャッキャッと騒ぐ女の子たちを見て野末さんが「女の子って楽しそうでいいよな」と言ったのがきっかけとなり、2人は「女の子ごっこ」をすることに。

まずは昼休みにパンケーキを食べに行き……

という、部下・外川くんによる「野末さんと女の子っぽいことをして、アンチエージングをする」作戦が始まる……

という物語です。

これだけ聞くと、コメディ?と思いそうなのですが、コメディ要素はとても少なくて、そしてエロ要素も少なくて、物語は淡々とリアリティたっぷりに展開するのです。

最初のページからびっくり、とにかく絵が細かい!

最近のマンガって、というかほとんど多くのマンガが背景が白くて、人物は書かれているんだけど背景適当だなと思うことが多いのですが、「オールドファッションカップケーキ」背景がとても細かい!

人間が書かれていない背景だけのコマも多くて、

「近年、こんなに丁寧に背景を書く漫画家さんがいただろうか?」

と思うほど。

しかもその背景もフリー素材や写真じゃなくて、全部手描き!

さらにはトーン貼ってごまかすようなコマなんかほぼゼロで、とにかく細かく書かれているんです。

目覚まし時計と伏せた本、寝乱れたベッドと本棚、洗面所に置かれたコップと歯ブラシなど、日常生活の何気ないコマが連続していて、まるで上質な絵本や映画を見ているみたいです。

野末さんが暮らす田舎の一軒家のインテリアや、外川くんが住むアパートの散らかり具合など、本当に描写が丁寧で「ここまで描いてくれるなんて…」と驚きながらページをめくりました。

BLだけど、BL枠を超えた上質なラブストーリー

「オールドファッションカップケーキ」は、2人の思いが通じるまでのやりとりが細かく描かれています。

野末さんに思いを寄せる外川くんの思いがにじむコマだとか、野末さんがだんだん外川くんに心を許し、気になる存在になっていく過程だとかがほんとうに繊細に描写されていて、はっきりしたセリフがなくても「分かるわぁ……」っていう、恋愛初期の甘酸っぱい部分がいっぱい。

そう、アラサーとアラフォーの男性二人の物語なんだけど、すごく甘酸っぱいんです。

2人とも変にすれてたり遊んでたりするキャラではなくて、真面目に社会生活を送る、本当にどこにでもいそうな人物で、BLにありがちな「片っ端からいろんな男と寝てたり」「力づくで奪われたリ」「不幸設定過ぎて死にそうだったり」みたいなところがなくて、本当に”普通な男性”んですよね。

そして、外川くんは自覚しているゲイですが野末さんはストレートで、そういう意味でも仲良くなりすぎたとき(思いを伝えたり付き合ってるわけでもないのに)周りの目を気にしたりと、すごくリアルなんです。

そんなリアルな中で、どうやって会社の上司と部下である男性二人が結ばれるのか……

という。

BLだけど、BLお決まりのご都合展開とかご都合モブがいたりとかご都合世界観だったりしない、本当にリアルな物語で、

「これはもうBLの枠を超えてない!?」

と読みながら何度も思いました。

BLじゃないレーベルから出ていても良さそうなくらい、一般的な、そしてとても上質なラブストーリーなんです。

刺さるセリフが並び、何度でも読み返したくなる

「オールドファッションカップケーキ」を読んで「いいなあ」と思ったのが、セリフ。

冒頭の野末さんのモノローグ

「経験値というのは

ある程度たまると

新たな経験を積む

邪魔をしてくる

 

これをすればあれが起こる、

という負の予測ばかりして

俺は俺に何もさせない。」

なんて、読んだ瞬間

「わかる~~!!!!」

と思いましたし(野末さん世代なら痛いほどわかる。そしてそういう人が周りに山ほどいる)、

「後悔は幸福になるための糧で

人生の燃料」

というワードが何度か出てくるのですが、これなんかもすごくいいですよね。

「オールドファッションカップケーキ」には「オールドファッションカップケーキ with カプチーノ」という続編があるのですが、この続編も名セリフ・名モノローグのオンパレード。

ただでさえコマ割りが細かくて一つひとつコマに絵が細かく描き込まれていて、さらにセリフも多いので、

最初はストーリーを把握するために読んで

次は細かいところまで絵を堪能するために読んで

今度はセリフの細かいニュアンスを味わうために読んで

と、何度読んでもおいしい作品なんです!!

ドラマCD版「オールドファッションカップケーキ」もいい!

こちらの作品、2020年8月にはフィフスアベニューから2枚組のドラマCDとして発売されています。

キャスティングはこちら。

野末:興津和幸

外川:阿座上洋平

私は野末さんはもう少し線が細い声のイメージを持っていたのですが、興津さんが演じる野末さんを聞いて「いや、これだわ。ちょっと疲れたイケメンの40男はこれだわ」と納得。

阿座上さんの外川も非常に原作の雰囲気にぴったりでした。

派手さのないリアルなトーンの演技はまさに「大人向け」。

エロに走りがちな昨今のBLCDの中ではかなり硬派だけれど、その分「上質」さが光る、何度でも聞き返したい作品になっています!

これ、実写で映画化するんじゃない?

BLといえば「窮鼠はチーズの夢を見る」が映画化されましたが、「オールドファッションカップケーキ」も映画化してもおかしくない、むしろ「これ、実写で映画になるんじゃないの?」と思わせる作品でした。

むしろ、「窮鼠~」ほど際どいシーンがないので、全年齢向けで、よりたくさんの人が見られそうですが……

水面下でそんな話、進んでいたりしないんですかね?

BL好きじゃない人でも、普段BLはそんなに見ない人にも自信をもってオススメできる令和の名作BL。

まだ読んでいない人はぜひ。

「読んでよかった……」

と思う、極上のラブストーリーです。

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