声優になりたいけれど、まだ小学生や中学生で声優養成所に入るような年齢ではないという人や、養成所に入るためのお金を貯めている最中、来年4月から養成所に通う予定という人は
「1日も早く、声優になるための勉強をしたいけれど何をしたらいいんだろう」
と思っているのではないでしょうか。
そのなかでも、
「演技力って大事だよね。それって自分1人じゃみがけないのかな」
と考えている人が多いかもしれません。
演技力って、そもそも何だろう?
皆さんは、「演技」って何だと思いますか。
「その役になりきってお芝居をすること」
もっとかみ砕くと、
「自分ではない指定された人格として、指定されたシチュエーションで、指定されたセリフで話したり、動いたりする」
ことです。
「それっぽい雰囲気で抑揚をつけてセリフを読む」ことがお芝居ではありません。
お芝居をしている時は。別の人間になっているので、その人として感じ、考え、話します。それが自然にできるのが「演技ができる」「演技力がある人」ということになります。
「それくらいできるよ!」「できるような気がする」
という人、いそうです。
けれど、お芝居・演技とはそんなに簡単なものではありません。
私が以前仕事を通じて知り合ったある俳優さん(映画主演経験もある方)が、こんなことを言っていました。
「台本の中で、自分の役がまずい状況になって追い詰められるシーンがあるとするだろう。そうしたとき、演じている自分自身も『ヤバイ、どうしよう』ってなって、冷や汗がダラダラ出てくる。心臓がバクバクなって、手に汗をかいて、頭の中は『どうすればいい、あれをすれば逃げられるか?いやだめだ、じゃあこうしたら?なんであのときあんなことをしちゃったんだろう』って、すごい勢いで考えがめぐって止められない。それが演じるっていうことなんだよ」
演じる役にシンクロし、その役の状況が自分事になり、それが汗や心拍数となって現われるくらい、本人が「信じている」のです。
そこには、「これはお芝居」という冷静さはほんの少ししかなく、意識の大半が「役の置かれた状況」「その役の人物だったら、本当にそう考えているだろう思考」になっています。
それが、「演じること」「演技」なのです。
余談ですが、お色気女優のように思われているマリリン・モンローも非常に優れた女優です。
彼女は「日向ぼっこをしている」というイメージで演技のトレーニングをしている際、そのシチュエーションを”信じすぎて”本当に体が熱くなり(日光を浴びているので)大量に汗をかいたという逸話があります。
さあ、あなたはこれができますか?できそうですか?
声優はマイクの前で、動かずに「演技」する
俳優だったら、舞台のセットや衣装、メイクや髪型、小道具で物語の世界や役の世界に入る手助けをしてもらえます。
しかし、声優はそれがありません。
しかも、マイクの前に立ち、片手に台本を持って、口がマイクからずれないようにして息が入らないようにしつつ、その役になって演技しなくてはいけないのです。
それだけではありません。
声優は、声だけで「何をしているか」を伝えなくてはいけません。
さらに、一つの作品で一人の声優が何役も演じることは珍しくありません。
さっきは若い女性を演じたのに、次はおばあちゃん、次は男の子とめまぐるしく演じる役が変わることはよくあります。
その都度、声を変え、話し方や速度を変え、でも「その役の人物」として感じながら演技しなくてはいけないのです。
声優って、本当に大変な、相当のスキルを必要とされる仕事です。
けれど、その前に必要なのは、やはり「演じること」。
役の人物にシンクロして、役の状況を自分事としてとらえ、その役の人物が考えているであろうことを考えながら演技することができるようになることです。
それができて、はじめてマイク前の動きや役のバリエーションや、そういう技術的なことを学んでいくべきなのです。
物語を読んで、登場人物を分析してみよう
そのためには、本を、物語を読みましょう。
マンガでもいいのですが、ある程度しっかり人物が描写された「やっつけではない」作品が望ましいです。
そこで、登場人物(まずは主人公がやりやすいです)がどんな人物なのか、どんな人生を歩んできて、どんなことがうれしくて、嫌いで、どんな特徴があって、そして物語の中で、その人物は何をしようとしているのか、何を考えながら動いているかをじっくり考えてノートに書いてみましょう。
それが正解か正解でないかは関係ありません。物語に描かれていない部分も想像して、その人の暮らしをイメージしてみるのです。
昨日の夜何を食べたのか、夕食のあと、普段は何をする人なのか、昨日はどうしたのか。もし1,000円持ってショッピングモールに行くとしたらどんな店に入るか、何を買うか、カフェに行ったら何を頼むか、カフェでどうやって時間を過ごすか、友達は何人くらいいるのか、どんな友達でどういう話をするのか。
とにかく物語に出てくるその人の「人物像」をはみ出さない程度にイメージしてみましょう。
考えれば考えるほど、その人がどんどん立体的になっていきます。
そうやってイメージしてからまた物語を読むと、最初は気づかなかった部分にも意識がいきます。
「もしかして、主人公はこの人からこう言われた時、こう感じたんじゃないかな」
「主人公は『わかりました』と言っているけど、これは本当は、断りたいと思いながら言ってるんじゃないかな」
「ここで主人公がこう答えたとき、実はすごくうれしかったのでは?」
そうやってイメージをどんどん膨らませて、人物をまるで親友や家族のように具体的にしていくのです。
そうして「役」のイメージを膨らませていくと、最初に思った「こうかな」という考えが「実は違った」「もっとこうだった」ということもよくあります。それでかまいません。だって、確かな答えなんてないんですから。
演技においては、見た人・聞いた人が納得できればそれで正解なんです。
それには、どれだけ水面下で、役者が「この人はこういう人なんじゃないかな」「この人はこの時、こういうことを考えながら動いてるんだ」とイメージできたかにかかっています。
私の知っているある声優は、一つの役を演じる前に、約1週間かけて役についてとことん掘り下げるのだそうです。それくらい時間をかけないと「自分とは別の人物」として演じられないのだと話していました。ですから、その声優の仕事のペースはゆっくりですが、全ての作品の演技に説得力があります。その声優を使った音響監督は、繰り返しその人を指名でオファーしています。それだけの仕事をしてくれるからです。
たくさんイメージしたら、「この人はこんな感じで話すかな?」と想像しながら実際に声に出してみましょう。動きながらでもいいです。でもそのとき、いきなり100%全開でやるのではなく「こんな感じかな」と探りながら、軽めにいろいろなパターンを試してみると、最初にイメージした型だけにはまらず、柔軟性を持って後から変えていきやすいです。
「こんな感じかな」を繰り返し、また想像し、物語を読んで自分の想像が破綻していないかを確認して、そしてまた声に出してみましょう。
1つの作品、1つの役にじっくり時間をかけて取り組み、どこまでその人物を深く掘り下げることができるか、物語に描かれていない部分まで想像できるかを試してみてください。
アニメのセリフを真似るより、ずっと「演技」の本質に近い訓練です。
「演じる」ことを知る、おすすめの本
演技について書かれたおすすめの書籍を紹介します。
少し難しいと感じる本があるかもしれませんが、読んでみてください。
上は活字、下はそのマンガ版です。演劇トレーナーとして活躍する伊藤丈恭さんによる著書で、演技をする人はもろん、一般人にもおすすめの名著。
伊藤さんの演技のワークショップも非常に素晴らしく、多くの俳優を開花させています。演技を学びたいという「俳優の卵」「声優の卵」も多く通っているので、本を読んで気になった人はぜひワークショップにも足を運んでみてください。
演技を学ぶ人ならかならず通る道、インプロ(即興演劇)を詳しく解説した書籍ですが、難しくなく、とても読みやすいです。
即興演劇はもちろん、演劇に関わる人なら読んでおきたい1冊。
演技の場を離れても、誰かと話すとき、何かをするとき、必ず役に立つはずです。
青年団の平田オリザさんが書かれた演劇入門書。さらりと読めるけれど学びの深い内容です。