声優事務所に所属したけど、仕事が入ってこない。引退するべきかもう少し頑張るべきか

少し前ですが、某ゲームアプリで連続してCV(キャラクターボイス)を担当する声優が交代しました。

交代理由はいくつかあるのですが、最も多いのが、声優の「引退」に伴う変更でした。

まだ若い声優で、デビューしたのも数年前。

けれど芸歴に並ぶ仕事の数はわずか。

「売れない」ために、声優という仕事に見切りをつけての引退だったと思われます。

売れずに声優を「引退」する人がとても多い

「将来は声優になりたい」「養成所に入って、そのあとは事務所に入りたい」「今は養成所で頑張っている、事務所に所属するのが目標」という人は「え、なんで!?」「もったいない!」と思うでしょう。

一方、養成所のレースを潜り抜けて事務所に所属したもののまだ「売れっ子」になっていない人の多くが「……分かるなあ」と感じるのではないでしょうか。

これはよく言われますが、声優事務所に所属したから安泰ではありません。

そこからさらに過酷なレースが待っていて、そのレースを潜り抜けた人だけが声優雑誌に取り上げられるような「有名声優」になれますが、それはほんのわずか、一握りです。

試しに、どこかの声優事務所のホームページを開き、「所属声優」のページを見てみてください。

そのなかで、あなたが名前を知っている人、今現役で活躍している人はどのくらいいますか。

大手事務所だと知っている人が多いのですが、大手の場合、ホームページに載っているのは「売れている一部の声優だけ」だったりします。ホームページの「所属声優」のページには掲載されていないけれど所属している、順所属、預かりになっているという人がたくさんいるのです。

中小の声優事務所だと、売れている人が数名であとは初めて見た人、初めて見る名前の人がほとんどです。

そして、よほどの売れっ子にならない限り声優の仕事だけで食べていくことはできません。

それなりに売れていそうな人でも、実は当たり前にバイトをしています。

そうしないと食べていけないのです。

それでも、オーディションの話が定期的にもらえて、全部ではないけれどいくつか受かるオーディションがあって、今は声優の仕事だけけでは食べていけなくても、声の仕事である程度の収入があれば「仕事がもっと増えるように頑張ろう」と思えるでしょう。

しかし、オーディションの話すら滅多になく、仕事があっても1年に数回、バイトで得たお金が収入のほとんどとなると、ある一定の年齢になったときや将来を考える相手ができたとき「この先もこのままでいいのか」と真剣に考えるようになります。

22歳でバイトをしながら夢を追うのと、27歳でバイトをしながら夢を追うのと、35歳でバイトをしながら夢を追うのとでは意味がまったく違ってきます。そして、声優以外の道に方向転換しようとしたとき、年齢が高くなっていればいるほど、その先の選択肢が非常に少なくなっていくのです。

それが、「全然売れていないけれど声優として頑張り続けるか」「声優には向いていなかったと見切りをつけて引退し、別の仕事を探すか」の分岐点になるのです。

そして、多くの人が「どこかの会社の正社員になって、安定した仕事をする」ことを選択します。

一応は声優事務所に所属できたけれど、売れないまま辞めていく人が多いことは、ある意味仕方がないと言えます。

仕事がなく、改善の見込みがないなら思い切って、現在の所属事務所を辞める

事務所がそれなりに大きく、事務所が持っている仕事は多いけれど自分にはオーディションの話がこないという場合は、実力不足もしくは同じ系統にもっと力のある人がいるということになります。

実力不足が分かっているならどこかのレッスンに通って実力を磨くしかありません。

けれど、強力なライバルがいてどうやら勝てそうにないと感じた場合は、一旦その土俵を降りて別の土俵でチャレンジするのは十分にアリです。

つまり、今の事務所を辞めて他に移籍するのです。

実際、大手事務所にいた時は芽が出なかったけれど中堅の事務所に移籍してから大きな仕事をいくつか取り、名前が知られてきている声優がいます。

 

その方は、人気アニメにレギュラーで出演し、ここ数年の間にリリースされた複数の人気ゲームでメインキャラの声優を務めています。

けれど、今の事務所を辞める前に、まず信頼できる事務所の先輩やマネージャーに「なぜ自には仕事が回ってこないのか」「どうすればいいのか」を相談してみると良いでしょう。

この場合、相談するのは異性の先輩をおすすめします。なぜなら、同性の先輩だとともすればライバルになる可能性があり、ほんとうのことを教えてもらえないリスクがあるからです。その点、異性の先輩ならオーディションの話が来てもライバルになりにくいので親身になって相談に乗ってもらいやすいです。

一方、中小の声優事務所に所属していて、そもそも事務所に来るオーディションの話自体がほとんどない場合、残念ですがその事務所にいる意味がもうありません。

「同じ事務所に所属している声優で仕事をしている人もいるよ」と思う人もいるかもしれません。しかし、その人自体が有名で指名で仕事が来るとか、その人が自力で仕事を取ってきているなら、事務所はもう関係ないのです。無名の新人の多くが事務所から仕事を振ってもらえないという事務所も多く存在し、「仕事は自分で見つけてきて」というところも少なくありません。

実はこの「仕事は自分で見つけてきて」という事務所、わりと多いです。

けれど、仕事を自分で見つけた場合も、あなたが事務所所属の声優なら、事務所から振られた仕事ではなくてもマージンを抜かれます。だいたたい3割は事務所の取り分となり、7割前後しか自分の懐には入ってきません。

自分で仕事を取れるならフリーランスになったほうが、ギャラは全部自分の懐に入るので収入的にはずっとオトクです。

むしろ、自分で仕事を見つけようというガッツがある人なら、フリーランスの声優になったほうがチャンスはずっと多いと言えます。

フリーランスの声優って、売れっ子じゃないと食べていけないのでは?

フリーランスの声優と聞いて、人気声優の名前がいくつか頭に浮かんだのではないでしょうか。

いずれも名前が売れていて、指名で仕事やオーディションの話が来そうな人達ばかりです。

しかし、そういう「超有名」ではない「無名のフリーランス声優」も、実はたくさんいます。

そして、フリーランスになったからこそ自由に仕事を取り、「声優だけで食べていっている」人も少なくないのです。

無名でフリーランスの声優になる場合、自分で営業をして仕事を取らなくてはいけません。しかし、そこで取った仕事は確実に「自分の仕事」になるため、オーディションで他の声優と仕事を取り合うことがありません。

そして、「やりたいジャンルの仕事」に絞って営業をすることも可能です。やりたくない仕事は断ることもできます。

「フリーランスの声優で、どうやって営業するの」「どうやって仕事を取るの」とイメージが湧かない人は、声優完全受注ガイド「ACTIVE」というフリーランス声優の手引き書があるので参考にしてみると良いでしょう。

「そうか、フリーランス声優か!何をどうすればいいか、なんとなくイメージできるぞ」という人はさっそく活動しても良いでしょう。事務所を辞めることに迷いがあるなら、マネージャーに「自分で営業してもいいですか?」と聞いて、営業は自分でするけれど仕事は事務所を通して受注するという方法を取れば角が立ちません。むしろ事務所からすれば「こちらは何もしなくても声優が全部自分でやってくれて、マージンも入ってくるから助かる。ありがたい」と言えます。

そこで実績をいくつか重ねてから退所し、大手事務所にボイスサンプルを送って所属の打診をしても良いでしょう。仕事をしている間に業界関係者と知り合えれば、そこから紹介してもらえるかもしれません。

「事務所から仕事がもらえなかったら終わり、オーディションの話がもらえなかったら終わり」ではないことを、やり方次第でいくらでも声の仕事ができることを知っていただければと思います。

けれど、もし声の仕事や演技をすることに疲れを感じ、以前のような情熱を持てなくなっているのであれば、声優業界から足を洗って会社員になることを考えても良いでしょう。

特にあなたが男性で結婚を考える人がいる場合や、将来的に子どもが欲しい場合は、会社員になったほうがいろいろ心配が少なく、家族に負担をかけずに済みます。

10年後、20年後、どの選択をすれば後悔しないだろうかと俯瞰して考えてみてください。

仕事がない事務所でくすぶってバイトの日々を重ねるより、先がどうなるか分からないけれどチャレンジして現状を打破するのは、十分アリだと思いますよ。